50.惨劇とおっさん―2
「私があなたに恐れを抱いているとでも?」
ついムキになって言い返してしまうサリエラ。
男は滅相もありません、とわざとらしく仰々しい態度でお辞儀をした。
「リーヴス……その人を食ったような物言いは止めて頂けませんか。私から、あなたへの信頼が無くなるだけですよ」
サリエラはそう言いながらも、男のことをハナから信用していないことなど、向こうも十二分に分かっているだろうと感じていた。
男の中はリーヴス・ケルレウム。
ジルヴァニア王国が抱える勅命騎士団、『五彩の騎士』の一人である。
“冷笑と断罪の蒼騎士”という二つ名は誰かに付けられたものではなく、薄ら笑いを浮かべながら悪人を裁く姿から、自然発生的に呼ばれだしたと言われている。
(お兄様も常々言ってましたね、リーヴスには気を付けろと)
勅命騎士団の団長であるブランも、それだけリーヴスの扱いには手を焼いていたということだろう。
そんな男と、一対一、しかも他の助けも得られないイルスフィアで相対している。
当然、向こうも自分を利用しようと考えているだろうと、サリエラは踏んでいた。
だからこそ、こちらからの誘いに応じ、こうして話し合い場を設けたのだろうと。
(だけどそれなら……こちらが利用してやるまでです……っ!)
リーヴスの武力は確かなものであり、その明晰な頭脳も、味方にすれば大きな力になる。
リーヴスを仲間に引き込むことが、グルゥに対しての最大の手助けだと、サリエラは考えたのだ。




