49.悪とおっさん―6
老人に案内されたのは、一軒の納屋だった。
扉を開け、足を踏み入れる前から分かる――納屋の中からは、いっそう濃い血の臭いが漏れ出していると。
「キット、お前は見るんじゃない」
「え、な、なんでだよ!? ここに来て、オレを子供扱いするのか!?」
「そうだ。……私の大事な娘には、なるべく、凄惨な場面を見せたくない」
ストレートに言われて、キットはもごもごと口ごもる。
状況が状況だけに顔には出ていないが、尻尾が左右に揺れているのを見ると嬉しかったらしい。
「分かったよ。……でも、オレが一番敏感な感覚を持ってるんだからな。何か調べることがあったら、言ってくれよ」
キットが後ろに下がったのを見てから、グルゥは大きく深呼吸をした。
いくら覚悟をしても足りないくらい、その扉を開けるのには勇気が必要だった。
恐らくそこには、二度と忘れることが出来なくなるほどの惨状が広がっているだろうから。
「なんという……ことだ……」
ゆっくりと扉を開けたグルゥは、その場に膝から崩れそうになる。
いったい何があったのか、考えるだけで胃液が逆流しそうになる酷い有り様だった。
ベッドの上に仰向けで横たわっていたのは、全裸のマリモだ。
恐ろしい思いをしたのか、その目はカッと見開かれている。
また、何かに抵抗するかのように、両手は首の近くに当てられていた。
ベッドのシーツは血で真っ赤に染まり、まるで元々朱色に染められていたかのようである。
そして、納屋の壁には血の文字でこう書かれていた。
『雄牛に股を開くクソビッチに粛清を』
血文字の下には、見るのも憚られる下品な丸いマークが描かれている。




