5.異世界勇者とおっさん―9
シャワーの水の音だけが鳴り響いていた。
グルゥは戸惑う。
いったいキットは、何を思ってこんなことをしているのか、と。
「親父のここ、周りは黒いのに、傷のところだけ白くなってるな。相当、深い傷だったんじゃないのか?」
「……ああ」
簡潔な返事。
それを聞いて、傷をなぞるキットの指先に力が入る。
「い、痛いぞ、キット」
「見りゃ分かるって。これだけの傷なんだ、命の危険だってあったんじゃないのか」
「……あ、ああ」
再び、グルゥの簡潔な返事。
そこまでが、キットの我慢の限界だった。
「んんんんんんんんんん……もうっ!!」
「あででででで!? コ、コラ!! 人の敏感な部分を乱暴に扱うな!!」
「だって、だってだってだってぇ!!」
そこでグルゥは気が付いた。
シャワーのせいで今まで分からなかったが、いつの間にか、キットの目から大粒の涙が流れていることに。
「どうして、お前が泣くんだ」
「だって……なんで親父は、オレに親父のことを教えてくれないんだよ。こんなの不公平じゃんか。オレは、親父に何だって話すって決めてるのに」
そういうことだったのかと、グルゥはキットの複雑な感情を理解する。




