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48.胎動とおっさん―9

 ――ツァイセは絶望していた。


 手も足も出なかった。

 自分の修業が足りなかったとか、そういう話じゃない。


 今まで見たことがなかった予測不能の魔法に、翻弄され続け、何も出来なかったのだ。

 願わくば、正々堂々と戦いを挑み直したいところだが――そんな機会が二度とないことは、分かりきったことだった。


「う……ぅう…………」


 『ベリアル』としての誇りである二枚の竜翼は無残に斬り落とされ、無造作に地面に落ちている。

 その状態で、ツァイセは全裸に剥かれて、両手両脚を縄で縛られていたのだ。


 これから自身に降りかかる最悪の結末を想像し、ツァイセは体を震わせた。


「もう……殺せ……っ!!」


「ん? なにお姉さん、くっころ系? そんなに犯されたいわけ? 押すなって言ったら押せ的な?」


 ミノンの様子を観察していたアキトは、ツァイセの言葉を聞いて振り返った。


「つかさー、口は自由にしてんだから、そんなに死にたいなら舌でも噛み切って一人で死んでりゃいいジャン。いちいち言葉にすんなよ、マジウケる」


「……ああ、そうだな……お前の言う通りだよ、これ以上、戦士として侮辱されるのであれば私は――」


 覚悟を決めたツァイセは、大きく口を開けて舌を噛み切ろうとした。

 が、そこに突然首輪が飛んできて、ツァイセは体の自由が利かなくなる。


「チートスペル“戒めの枷(パニッシュメント)”」


 もちろん、アキトのチートスペルだった。

 ついに死ぬ自由すらも奪われて、ツァイセの心は完全に崩壊した。

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