48.胎動とおっさん―5
一方で、ツァイセはイルスウォードの仲間と共に“琥珀の血封門”に居た。
「ウルヴァーサ様、どうぞご無事で……」
その手に握られていたのは、竜の牙のお守りである。
ウルヴァーサから渡された、唯一のものだった。
――かつての大戦で死んだはずの英雄。
その姿が目の前に現れた時、ツァイセは自らの目を疑うほどに驚いた。
しかも、その英雄が自分に力を貸して欲しいという。
(本来であれば、私のような人間が囮になるべきだったのだ)
だがそれではグルゥは釣れないと、ウルヴァーサは自ら進んで囮役を買って出た。
ウルヴァーサがあんなでくのぼうに負けるわけないと、ツァイセはそう信じてやまなかったが。
(あの大男に隠された本質……あまりに危険すぎる……)
慰霊碑の丘の上でグルゥに殴り飛ばされた瞬間、ツァイセはそれまでに感じたことのない恐怖を、グルゥから感じでいた。
温和そうな表情の裏に隠された、破壊神のような本性。
もしもあの力の全てがウルヴァーサにぶつけられたら、いくら救国の英雄といえどもタダでは済まないんじゃないかと、ツァイセはそんな不安に駆られていたのだ。
「そろそろ最深部だな」
先を行くイルスウォードの仲間が言った。
“琥珀の血封門”は赤茶けた洞窟のような場所で、その床や地面から発せられる熱で、既にメンバーはくたくたに疲れている。
『サタン』と『アスタロス』が守る鍵がキーになっている血封門であり、大地と熱のダンジョン、というような表現がしっくりくる場所であった。
「ん……なんだ、お前はっ?」
不意に前方が騒がしくなったので、ツァイセはハッとして前を向く。
真っ赤な噴水のようなものが、洞窟の壁を濡らしている。




