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5.異世界勇者とおっさん―8

 布で拭っても血の臭いまでは取れず、慌てて飛び込んだ裏路地の宿。

 キットと共にシャワーを浴びながら、グルゥは先程の出来事について考えていた。


 本当に、娘を奪ったあの異世界勇者がこの町に来ているのか。

 だが、男の心臓を時間差で爆発させたあの術は、異世界勇者が使った妙な術の一つだとしか考えられない。


 だとしたら、自分はどうすればいいのか。


「親父……なに、難しい顔してるんだよ」


 その言葉は、一人考え込むグルゥの耳には届いていなかった。

 キットの髪をわしゃわしゃと洗いながら、グルゥはただ思案を続けている。


「い、痛いって。力加減が間違ってるよ、親父。なぁ、聞いてるのか?」


 そこまで言われても、グルゥの頭にはまだキットの言葉は入ってこない。

 そんなグルゥの姿を見続けるのが耐えられなくなり、キットはずっと躊躇っていた質問をした。


「なぁ、親父がそこまで深刻な顔をしてるのって……その胸の傷と、関係があるのか?」


「…………っ!?」


 気付いていたのかと――そこまで言われて、グルゥの耳にようやくキットの言葉が入ってくる。

 グルゥの左胸――逞しく盛り上がった大胸筋には、生々しい傷の痕が残っていた。


「やっぱり、そうなんだな。異世界勇者の悪行は、この辺りではかなり有名な話だし……親父の顔つきが変わったのを見て、何か関係があるかと思ったんだ」


「ま、待ってくれ。お前も知っていたのか……? 異世界勇者のことを」


「この辺りじゃ知らない人間の方がいないよ。勇者ってことを建前にして、我が物顔で町を練り歩く。少しでも逆らう人間がいれば、すぐに私刑を行うって……有名な話だ」


 そう言って、キットは振り返ると裸のままグルゥに向き合った。


 困惑して目を逸らすグルゥ。

 するとキットは、手を伸ばしてグルゥの胸の傷に優しく触れた。


 グルゥはウッと呻いて身じろぎしたが、何も言わず、キットのされるがままになる。

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