48.胎動とおっさん―4
「親父、オレのことは別に気にしないで――」
「いや……まずは、冬眠したミルププを何とかして、連絡を取ることを考えよう。デルガドス王にこの状況を伝えられれば、何とか……」
傷ついた体を癒すのも大事だが、事態は予断を許さない状況であることは変わらない。
ひとますルッタの元で休むのを決断したグルゥだが、
「って、親父! これこれ、大事なもの忘れてる」
キットが床から回収したのは、黄色い螺旋状のオブジェクトである。
血封門の鍵だが、怒りに我を忘れたグルゥが、ウルヴァーサの胴体ごと吹き飛ばしてしまったものだった。
「傷一つ無い……さすが、頑丈なものだな」
キットから鍵を預かったグルゥだが、それからの扱いに困り果てる。
本来であればドラグロアに返すべきところだが、イルスウォードの動きと、ミノンが攫われたままであることを考えると、そのためだけにドラグロアに戻る余裕は無かった。
だが、鍵を持ったまま戦いの渦中に飛び込むのも、どう考えても有り得ない選択肢である。
「……これは、ルッタが預かっていてくれるか?」
「ええっ!? そ、そんな、他国の鍵を私が持つなんて――」
「君だからこそ、任せたいんだ。……この鍵の危険性を知っている、君だからな。大丈夫、こっちのことが落ち着いたら、ドラグロアに返すために戻ってくるさ」
グルゥは黄色の鍵をルッタに握らせると、その上からぎゅっと手を包み込んだ。
雪のように白いルッタの頬が、ぱっと赤色に染まる。
「……親父、それ分かっててやってんのか?」
「ん? どういう意味だ?」
こりゃダメだと、頭を抱えてうな垂れるキットだった。




