47.続・プライドとおっさん―6
黒き炎がフロアを包み込んでいく。
失いかけた理性の中で――グルゥは最後の希望にかけていた。
それはつまり、ここにはミノンが居るということ。
もし、自分がサグレスタワーの時と同じように暴走してしまっても、ミノンが危険を感じれば、黒き炎を消してくれると考えていたのだ。
だが――魔法陣に向かうミノンは、これだけの騒ぎが起こっても、まるで気がついていないように一心不乱に壁に向かっている。
「グルルルルル……」
唸り声をあげるグルゥ。
破壊衝動を抑えることができない。
その標的は、視界の中にいたミノンだった。
「ガアアアァァァァァ……ッ!!」
もう一度、今度はミノンに対して熱線を撃とうとするグルゥ。
しかし、その前に立ちはだかる一人の魔人の姿があった。
「私は……“守り人”だから……!」
それまで戦いの行く末を見守っていたルッタだが、血封門が傷つけられた今、黙っているわけにいかなかった。
「グルゥさんには悪いけんども、私の本気でそぬんすの炎を止めてみせんけんだや!!」
直線上に標的が入ったことにより、反射的に熱線を撃とうとするグルゥ。
が、大きく開けた口に氷が纏わりつき、その一発は不発に終わった。
グルゥはすぐさまくっついた右腕――右の前脚でルッタに襲い掛かったが、その動きも氷によって封じ込められてしまう。
既にグルゥの巨体は、床から這い上がってきた氷の蔦によって、全身氷漬けにされていたのだ。
「ガ…………ァア…………!!」
全身を急速に冷やされて、グルゥの動きは見る見るうちに鈍くなっていた。
これが『アスモデウス』の力――『サタン』にとって致命傷になり得る、氷の魔法である。
魔獣化が解けたグルゥは、全裸のまま氷の中に閉じ込められ、そのまま気を失うのだった。




