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5.異世界勇者とおっさん―7

「こんなのって、ないだろ……!? 俺は勇者の玩具として散々弄ばれた挙句、ここに運び込まれ捨てられたんだ。その間、俺を助けようとする者は誰もいなかった。俺はあれだけ、町の人を助けてやってたのに、だ……!」


 男の恨み節を聞き、グルゥは胸が痛くなるのを感じる。

 キットは既に号泣し、グルゥの背中にしがみついていた。


「……でも、その反面、安心してるとこもあるんだぜ。だって、俺のヘマに、誰も巻き込むことなく俺は死ねたんだからな。それだけは一番嫌だった……あの勇者なら、たて突く者には容赦なく暴力を振るうだろうからな」


「死ぬなんて、そんなこと言うな!! 諦めちゃ駄目だ、諦めれば、そこで全てが終わってしまう!」


「……本当に優しいんだな、あんた。ある意味、俺はラッキーだ。今際の際にあんたみたいな男に出会えたことで、俺は最後に、人を信じて死ぬことが出来る……」


 男の口から、ごぼっと血の塊が溢れ出してきた。


「もう……時間、みたいだ。なるべく、俺から離れろ。あの勇者は、あえて俺を生かしたんじゃない。……自分の力を誇示するために、俺を見せしめに使った上で、命までは取らないと民衆にアピールしたかったんだ。だけど、アイツは本当に俺を生かしておくほど寛大じゃない」


 そう言われても、グルゥは今にも尽きようとしているこの命を、見捨てることは出来なかった。

 だが、キットは違っていた。


「なんだよ、この、時計の針みたいな音……だんだん大きくなってる、まずい、親父、逃げろ――」


「ああ、最後に……もう一度、家族に――」


 とっさにグルゥに体当たりし、その巨体を突き飛ばそうとするキット。

 しかし頑強な体に弾き返され、キットは石畳の上を逆に転がっていった。


 そしてその瞬間、男の心臓がパァンという破裂音と共に爆発する。


 血の雨が降り注ぐ中、グルゥは呆然として、自らの腕の中で散っていった男のことを思うのだった。

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