46.プライドとおっさん―7
「お前の負けだ……諦めろ」
目の前のウルヴァーサは、焦点の合わない目で虚空を見つめていた。
それでも膝をつかないのは、将軍として、『ベリアル』としてのプライドが為せる業だろうか。
だが、ウルヴァーサに腕を突き刺したグルゥは、妙な違和感も覚えていた。
(この血、そして肉……まったく温かみを感じられない。やはり、ネクロマンスされたアンデッドなのか)
グルゥ自身もウルヴァーサの返り血を浴びていたが、それは凍るように冷たい。
本当に、これでウルヴァーサを倒すことが出来たのか、まだ確証が持てなかった。
一度様子を見ようと、グルゥが腕を引き抜こうとした――その時だった。
「誰が……負けだって?」
ウルヴァーサの目に生気が戻り、不敵な笑みを浮かべる。
嫌な予感がして、グルゥはすぐにウルヴァーサを突き飛ばそうとしたが、もう遅い。
「将軍ウルヴァーサが、こんなこっすい手を使わなきゃいけないなんてさ……ホント、嘘だろって感じだよなァ!?」
再び、ウルヴァーサの体で“竜化”が始まる。
突き刺したままの腕の周辺でも、筋繊維の膨張と、皮膚の鱗への変貌が始まり、逆にグルゥの腕を捕まえたまま逃がそうとしなかった。
「やめろ、貴様ッ!!」
「ぎゃはははははははっ!! 『傲慢』のベリアルが、落ちぶれたモンだぜ!!」
ウルヴァーサはそう言うと、再び“竜化”させた強靭な顎でグルゥの右腕に噛み付き――グルゥの右腕を、力任せに噛み千切った。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああ――」




