46.プライドとおっさん―5
「――遅いんだよ、親父」
暴風を裂くようにして、一筋の稲妻が放たれる。
それはウルヴァーサの頬を掠めると、ミノンが向かい合っていた巨大な魔法陣に激突した。
砕けた氷によって霧が立ち込める。
ウルヴァーサは頬の鱗から流れた一筋の血を長い舌で舐め取ると、へぇ、と感心したように頷いた。
「まーだ、そんな隠し玉を持ってたのか」
竜巻の向こう側に現れたのは、全身に青白い電撃を纏ったキットだ。
バチバチと溢れる電撃によって、耳と尻尾の毛がこれまでにないくらいに逆立っている。
「キット、その姿は……!?」
「分からない。分からないけど、体の奥から力が溢れてくるんだ」
まさかキットも、自分と同じように“血統の覚醒”に至ったのだろうか?
グルゥはそう考えたが――電撃を身に纏っている以外、キットの姿に変わりはない。
そもそも本来の『マモン』は猫型の獣人なのだ。
“形質反転”が生じたキットに、魔獣化するまでの力があるのかも分からなかった。
「オレだって、親父の役に立ちたいと思って一緒にここまで来てるんだ。親父の言葉を、今までどれだけ待っていたことか」
「キット、お前――」
「大丈夫。もう、あんなヤツに“遅れ”を取ったりはしない」
腕の中で抱えていたはずのキットの姿が、一瞬で目の前からいなくなる。
「今度こそ、お前をぶん殴るっ!!」




