46.プライドとおっさん―4
「ったく、俺を誰だと思ってるんだ? 一騎当千どころか、一騎当万とまで恐れられていた“将軍ウルヴァーサ”だぜ? 武術だけでなく、魔法の扱いもお手の物ってわけだ」
徐々に弱まっていく竜巻の勢い。
竜巻の内部の様子が徐々に見て取れ――竜化したウルヴァーサの口元が、満足げな笑みを浮かべた。
「だからさァ……そうやってさっさと、本気で来いッて言ってんだよッ!!」
全身が黒い剛毛で覆われ、魔獣化したグルゥの肉体。
だが、鋼をも凌駕するはずの硬度を持った皮膚は、既にズタズタに引き裂かれていた。
腕の中のキットは、グルゥの全身が血まみれになっているのを見て、泣きそうな声を出す。
「お、親父、ゴメンっ。オレ、また足を引っ張って――」
「いや……さっきはこっちが助けられたんだ。これでおあいこ、ってところだな」
口調こそいつも通りだが、グルゥの声に力は無く、かなりのダメージが入っていることが分かった。
ウルヴァーサはそこに容赦なく次の一撃を喰らわせようとする。
「次はそのデカブツの体に、風穴空けてやんよッ!!」
「だからキット……私からも、改めて頼む」
まだ理性を失うほどの魔獣化はしていない。
サグレスタワーの時の二の舞は御免だと、グルゥ自身、気をつけているからだ。
「私の相棒として、ウルヴァーサとの戦いに協力してくれ」
「――っ!!」
ウルヴァーサの力は圧倒的だった。
一人では敵わないと、グルゥははっきりと、そう感じていたのだ。
だから、今まで戦いに巻き込むことなど考えたことも無かったキットに、そう告げた。
キットがハッと顔をあげた瞬間、ウルヴァーサの手から放たれた竜巻が再び二人を包む。




