46.プライドとおっさん―1
「何故、お前が――」
滴り落ちる血を目の当たりにしながら、グルゥは声を震わせて話した。
「ここまで来ているんだ……キット!?」
「へへっ。いつまでも守られてばっかじゃ、格好がつかないかんね」
ウルヴァーサの『竜化』した右手の一撃は、キットのダガーによって食い止められていた。
キットにそれだけの腕力があるわけじゃない。
ダガーと共に放った電撃が、ウルヴァーサの爪を弾いたのだ。
「たまにはオレにも……カッコつけさせてくれよッ!」
「邪魔だ、ガキ」
ウルヴァーサはグルゥの腕から引き抜いた左手で、無造作にキットを薙ぎ払おうとした。
だが、キットはその一撃を避けるとウルヴァーサの背後に回りこむ。
「なにっ!?」
油断していたのか――想像以上のスピードに焦りの表情を見せるウルヴァーサ。
再び電撃をお見舞いしようとしたキットだが、翼のはためきによって弾き飛ばされてしまう。
「うわっ!?」
「そうか、お前は……『マモン』の血統なんだな。ガキの分際で俺に一撃を食らわせやがって」
そう言ったウルヴァーサのこめかみには、傍から見て一目で分かるほどの血管が浮き出ていた。
「俺のプライドが許さねぇ。八つ裂きにして殺してやるよ」
赤と黒の髪が渦を巻くように逆立ち、ウルヴァーサの『竜化』が進む。
両腕と両脚を竜鱗に覆われた形に変え、ウルヴァーサは爬虫類のような目でキットを睨み付けた。




