45.氷の世界とおっさん―7
が、ウルヴァーサに返って来たのは痺れるような手の感覚。
ガキィィンと言う金属音が、フロア中に鳴り響いた。
「んな――」
剣は刀身から真ん中から真っ二つに折れて、宙を舞っていた。
驚きで目を見開くウルヴァーサ。
切り裂かれた服の下のグルゥの腹筋には、傷一つついていなかった。
「この程度の、なまくらでッ!!」
そこにすかさず、上から叩きつけるようなグルゥの拳が降り注ぐ。
武器を失ったウルヴァーサに、反撃の余裕はないように見えたが、
「――ーんちゃって」
ザクッと鋭い痛みがはしってグルゥの右腕の動きが止まった。
「ぐ……」
腕をつたい、指先から滴り落ちる真っ赤な血。
ウルヴァーサは『竜化』させた左手の爪を、グルゥの腕に突き刺すことで強引に攻撃を止めたのだ。
「魔人相手だぜ? 『サタン』は怒りによって自身の身体を強化し、その筋肉は鋼をも凌駕する硬度になる――それくらいの知識、俺様が持ってないわけねーだろ?」
「今の、剣は……」
「ブラフに決まってんだろ。……そうそう、もう一つ『サタン』についての重要な特徴を思い出したわ」
そう言うと、ウルヴァーサはグルゥを哀れみを込めた眼差しで見下した。
「頭に血の上った『サタン』は、猿以下の知能指数だってな。……分かったなら、さっさとステージから退場してもらうかッ!!」
右手も『竜化』させたウルヴァーサは、狙いすました一撃でグルゥの心臓を貫こうとした。
グルゥはとっさに後ろに下がろうとしたが、突き刺されたままの右手が動かせない。
「しまっ――」




