45.氷の世界とおっさん―5
フロアの奥には、入り口とは比較にならない程の、巨大かつ精緻な魔法陣が描かれた扉があった。
いや、その大きさ故、扉というよりむしろ“開く壁”と言った方が良いのかもしれない。
そしてその壁に手を付く、一人の子供の後ろ姿がある。
「ミノンッ!!」
グルゥはすぐさま声を掛けたが、ミノンに動きはなかった。
防寒用のコートに加え、黒いフードを被ったその後ろ姿からは、表情一つ読み取れない。
「おっと、気を散らさないでくれよ。今はこの魔法陣の“解析”中なんだ」
ウルヴァーサはそう言うと、自身の防寒用コートをひけらかす様に手を広げた。
「ところで、こいつを見てくれよ。ペアルックだぜ、なかなかキュートだろ? いっそ俺が、この子の本当のパパになってやろうか?」
「……お前は、本気で私に殺されたいらしいな」
グルゥが変貌しかけていることは、後ろから見ても一目瞭然だった。
逆立った髪に、軋む黒角が防寒用の帽子を下から押し上げている。
「殺す? おーおー、物騒だねぇ、さすが『サタン』の血統!」
「本来であれば暴力は好まないが……お前がこれ以上、ミノンを自分の好きに使おうというのなら……私から、子を奪おうというのなら――」
グルゥの脳裏にフラッシュバックしたのは、自分を庇うノニムの後ろ姿だった。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
それに今は、自分だけでなくキットの身も守らなくてはならないのだ。
子供達を守るためなら、理性なんてトリガーはいつでも吹き飛ばせるような気がした。
「下がってて、ルッタ」
キットはそう言って、ルッタをフロアの入り口の方まで下がらせる。
「で、でもキットさんは――」
「大丈夫……オレは親父の、サポートをするから」




