45.氷の世界とおっさん―4
血封門の内部はさながら氷の迷宮のようだった。
ガラスのように透き通った氷の壁や、天井から落下してくるツララ針の罠。
また、雪が集まって出来たゴーレムや、青白い肌のガーゴイルなど。
多種多様な魔物やトラップが、血封門内に張り巡らされていたが――それらは全て、“処理された”後であった。
「まさか、ここまで侵入されているとは……信じられないです……だ」
落胆したようにルッタが言う。
障害となるものもなく、ルッタの道案内もあって何ら問題無く血封門を進むグルゥだが、無口になり、その背中には言いようのない威圧感が現れていた。
「な、なんか……雰囲気が変わりましたね。とても優しい方だと思っていたのですが……だ」
「変わった? そうかな? 親父の怒りは……優しさから来る怒りだから」
キットの言葉を聞いて、ルッタはどういう意味かと首を傾げていた。
キットは不安だった。
先程のグルゥの言葉。
有無を言わせない空気だったため何も言い返せなかったが、グルゥはまた一人で戦おうとしている。
それも、『サタン』の血統の力を解放するつもりのようだ。
――もしも、サグレスタワーの時のような暴走状態になってしまったら、どうすればいいか。
「ごめんな……親父、オレ、やっぱり……!」
口の中で呟いたキットは、グッと拳を握り締める。
と、氷の迷宮の探索はそこで終わりのようだった。
「ここが、最深部に続く扉があうフロアなのですが――」
狭い通路が開けて、大きな広間が現れる。
「よォ。随分と、待たせてくれたじゃねーか」
その奥には、片手を挙げて不敵に笑うウルヴァーサの姿があった。




