5.異世界勇者とおっさん―4
裏路地に駆け込んだところで、グルゥはキットを石畳の上に降ろす。
「あ、あまり町中でくっついたりするもんじゃないぞ」
「えー、どうしてだよ?」
「どうしても、こうしてもだ。……さすがに私の方が恥ずかしいぞ。うん」
グルゥの説明にキットは納得がいかない様子だったが、その時、キットの鼻がヒクヒクと忙しなく動いた。
「どうした? まさかまだ、私の体が臭かったか?」
「いや、そんなことじゃなくて。……なんか血の臭いがしないか? 親父。この奥からだ」
さらっとそんなこと呼ばわりされて、内心気にしていたグルゥはショックを受けた。
だが、血の臭いという物騒な言葉を聞いた以上、放っておくわけにはいかない。
キットの五感は自分より遥かに優れていると、グルゥはそのことに気付き始めていた。
「裏路地の奥……か。気をつけろよ。周囲を警戒して、私から離れないようにしろ」
グルゥの指示に、力強く頷くキット。
そして二人は裏路地の、昼間でも薄暗いような袋小路に辿り着いたが。
「な……何があったんだ? これは」
そこには、血まみれになった男が一人で横たわっていた。
大変だと、グルゥは慌てて男の下へ駆け寄る。
男は目を潰され、さらには手足の腱を切られており、もはや生きていることすら苦痛であるような、そんな苦悶の表情を浮かべていた。




