43.魔女とおっさん―5
そして深夜。
「だから、これが嫌だったんだよ……」
グルゥの腕の中にすっぽりと収まるキット。
キットはグルゥの厚い胸板の上に顎を置き、それ自体はキット自身も望むところだったが、いびきを掻くグルゥは無意識の内にキットの獣耳をモフっていた。
「うぅ、くすぐったいし、こんなんじゃ眠れやしないって」
耳や尻尾をいじくり回され、すっかり顔を上気させたキットは、体を反転させてグルゥの手から逃れようとした。
……が、
「危険だ……あまり遠くに行くんじゃない……」
むにゃむにゃと寝言のようにグルゥは口走ると、キットの体をガッと掴んで再度自分の胸の上で寝かしつけようとする。
「ちょ、親父! いい加減離せってば!」
キットは腕の中でもがいたが、グルゥは相変わらずいびきを掻いていて、どうやら確かに寝ているようである。
納得がいかず、もう一度体を反転させるキット。
今度はぐわしっと尻尾を掴まれて、また正面を向かされた。
「わざとやってるんじゃないのか!?」
イライラがピークに達し、キットの獣の部分の毛が逆立った。
一回、本気で噛み付いてやろうかと、鋭い犬歯をグルゥの腕に突き立てようとするキットだったが――
バタン!!
いきなり、何処からか大きな音がして、耳と尻尾がビクゥッと逆立ち天を突いた。
「な、何の音だ……?」
相当な音量だったが、グルゥは相変わらずの眠りっぷりを披露している。
雪の中の行軍で疲れていたのだろうが、あまりにも鈍感すぎるとキットはご立腹である。




