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ケントラムの近辺に位置する、地図にも載っていないような名も無き村。
そこの納屋を借り、隠れ家として使用しているアキト達だが、そこに戻る道中で、ゲンロクはアキトと落ち合っていた。
「わざわざ迎えに来てくれるとはな。そんなに気になっていたか」
「ま……そりゃ因縁の相手だしね。で、そのボロボロの格好を見るに……案の定負けてきたってわけか」
アキトは体のあちこちに包帯を巻いたゲンロクを見て、あらかさまにため息をつく。
「単純なパワー系のチートスキルしか使えない俺だからな。パワーで負けて、コテンパンにされてきたさ」
そう言うゲンロクの表情は、どこか爽やかなものだった。
それを見て、アキトは苛立ったように頭をボリボリと掻く。
「ったく……それで本当に俺達を守れんの? どうすんだよ、もしあの魔人が攻め込んできたら」
「……はは、まさか。グルゥさんはそんな好戦的な性格じゃないさ」
自分達の隠れ家を伝えたことを隠すため、ゲンロクは取り繕った笑みを浮かべた。
アキトを痛めつけたいわけじゃない。
だが、増長し続けるアキトを押さえつけるのも、そろそろ限界だろうとゲンロクは思っていた。
そして、アキトからマリモやユズ、そして妹のミクを守るためには――グルゥの力を借りる必要がある、とも。
「なんだよ、グルゥ“さん”って。まさか、アイツと結託したんじゃねーだろうな」
「そんなわけないだろ。ただ、あの人はお前が言うような残虐な魔人じゃなかった、それは分かった」
ゲンロクの言葉に、ふーん、とアキトは興味なさげに答える。
どうにか誤魔化させたかと、ゲンロクはホッと一息ついたが。
「ごめんなぁ、先輩」
突然、胸を貫いた鉄の感触。
冷たいはずの刃が、すぐに自身の痛みで灼熱の熱さのように感じられた。
「な…………っ!?」
「裏切り者を、アジトに帰すわけにはいかねーんだわ」
暗くなっていくゲンロクの視界。
真横になった世界で、自分を見下ろすアキトが邪悪に笑っていた。




