42.決闘とおっさん―8
ゲンロクは左の拳でグルゥを殴りつけるが、既に密着している状態で、グルゥの体躯に対しその威力は微々たるものでしかなかった。
「君を傷つけることは不本意だが――」
ゲンロクの体を引き寄せたグルゥは、両腕でその体をしっかりと拘束する。
グルゥの熱で柔らかくなった鋼鉄の体に、容赦ない圧迫の力が加わった。
「ぐ……ッ!! さ、鯖折り……ッ!?」
ピキッと音を立てて鋼鉄の体にヒビが入る。
呼吸すらもまともに出来ないゲンロクは、グルゥの腕の中で必死にもがいた。
「……っあ……!!」
「君の負けだ、ゲンロク。降参しなさい、そうすればこれ以上君を苦しめるようなことはしない」
まるで悪役のセリフだな、と言いながらグルゥは自嘲気味の笑みを浮かべる。
しかしグルゥがどれだけ締め付けようと、ゲンロクは決して負けを認めることはしなかった。
「…………負け…………ない…………俺、はっ…………!!」
チートスキルを維持する力も失って、ゲンロクの鋼鉄化が解け素顔に戻る。
朦朧としているのか目の焦点は合っていなかったが、その目には未だ闘志が宿っている。
「何故だ、どうして君はそこまで……!?」
「俺、は…………ミク、を、まも…………」
そこまで言いかけたところで、ついにゲンロクはグルゥに体を預けるように気を失った。
口の端から血が流れているのを見て、グルゥは慌ててその手を離す。
「おい、大丈夫か! おいっ!」
傷つき倒れたゲンロクだが、その表情は全ての力を出し切ったように安らかなものだった。




