42.決闘とおっさん―7
ガクリと膝をつくグルゥ。
心臓に鋼の拳の一撃を受け、その衝撃で失神をしていた。
――が、それは一瞬の話である。
「すまないな……この年になると、若者の運動量には勝てなくてね」
すぐに正気を取り戻したグルゥは、しっかりとゲンロクの腕を捕まえていた。
とっさに腕を引っ込めようとするゲンロクだが、単純な力ではグルゥに敵わないことを悟る。
「若者の期待を裏切るようで申し訳ないが、少しズルをさせてもらった」
「へし折ろうたって無駄ッスよ。『鋼鉄の意志』で覆われたこの体は、どんな物理攻撃をも受け付けないんス」
「だろうと思ったよ。それじゃあ、これならどうかな」
ゲンロクの冷たい拳を、自分の胸に押し当てる。
「何を……?」
怪訝そうな声を漏らしたゲンロクだが、その異変にすぐに気が付いたようだ。
「こ、これは……ッ!?」
「私の本心が知りたいのなら……思う存分、受け止めるがいいさ」
心臓の鼓動が徐々に大きくなり、発する熱量もそれに比例して高くなっていく。
魔獣化するまでの『憤怒』を引き出すことは難しいが、ゲンロクがアキトを匿っているのだと考えると、それでもある程度の怒りを発することが出来た。
「ぐっ、あ、熱いっ!」
素手で触れれば火傷をするほどの体温だ。
鋼鉄化したゲンロクの拳は徐々に赤みを帯びていき、その硬度は徐々に失われていく。




