###隠れ家にて###―1
納屋のドアを開けたゲンロクは、足を踏み入れるなり前のめりに倒れ込んだ。
突然の帰還に驚くアキトとマリモだったが、真っ先にゲンロクに駆け寄る者が一人。
「にぃに! 大丈夫!?」
全身傷だらけ、満身創痍のゲンロクに駆け寄るのは、彼の妹であるミクである。
ゲンロクは今にも気を失いそうな状態で荒く呼吸をしながら、フッと笑ってみせた。
「俺は大丈夫だ……それよりも、ユズの治療を頼む」
ゲンロクの後から入ってきたのは、焦点の合わない目で虚空を見据えたユズである。
あは、あはは、と意味のない笑い声を発するその姿は、どう見ても正常なものではなかった。
「んだよ……あれだけデカい口叩いて、結局負けてきたのか」
「ちょ、ちょっとアキト! そんな言い方はないじゃない!」
「事実だろ。しかもこっちの警察みたいのに捕まって、ゲンロク先輩まで危機に晒したんだ。正直、そこまでのリスクを犯してまで助ける必要があるのか、俺には甚だ疑問だね」
アキトはベッドの上で胡坐を掻きながら、散々ユズのことをこき下ろした。
右半身の火傷の痕は治っていないものの、徐々に体力を取り戻したアキトは、十分に動ける状態だ。
「そう、言うな……。俺達七人は、異世界に飛ばされた同士の、仲間だろ」
壁にもたれかかったゲンロクは、ミクによるフォルの注射を受けながら、口撃を止めないアキトを窘める。
もっとも、ユズ自身は既にアキトの話している内容も理解出来ないらしく、あははは、と壊れたように笑っているだけだった。
「チートスキルはまだ使えんのか? ユズの能力があると無しじゃ、情報収集力に雲泥の差があるからな」
「ねぇアキト! まずは能力のことより、ユズの心配でしょ? どうして、こんなことになったのか……」
「どうしてって、あのクソ親父にやられたんだろ。こんな精神崩壊を起こしてるくらいだ、散々乱暴されたんじゃねぇか?」




