1.孤児とおっさん―3
「な……なんで……っ!?」
リーダー格の子供の表情に、焦りの色が浮かぶ。
「なんで逃げることすらしねェんだ!? おっさん!! マジで刺さっちまったじゃねーか!!」
何故か半泣きになって喚く、リーダー格の子供。
ほほぅと、何となく察したグルゥは顎鬚に手を当て、したり顔を作る。
恐らく、ダガーはただの脅し用。
本当に刺すつもりはなかったのだろう。
予想外に慌てるリーダー格の子供を、グルゥは逆に可哀想に思った。
まず落ち着かせてあげようと、努めて優しげな声で語りかける。
「大丈夫だ、心配しなくていい。ほら、見てみろ」
グルゥは穴の空いた服を、ぺろんと胸元まで捲り上げる。
防具でも付けていたのかと、一瞬、子供の表情が緩んだが、
「私の鋼のような腹筋は、その程度のなまくらであれば、全く刃を通すことがないんだ。ほら、肌の部分にかすり傷がついただけだろう? この程度の傷であれば、数時間もすれば治るよ。だから、君は人を傷つけてないんだ」
そう、優しく諭したはずなのだが――緩みかけた子供の表情は、徐々に恐怖で強張っていく。
「え? ど、どうしたんだ? 良かったら触ってみるか? 本当に刺さってないから」
それは全くの逆効果なのだが、グルゥはそのことを理解していなかった。
子供の恐怖心は、やがて臨界点を突破する。
「ば、ば、ば、化け物ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そう叫んで、くるりと踵を返しダッシュして逃げ出そうとした。
その反動で被っていたキャップが脱げたため、グルゥは慌てて子供の腕を掴む。
「待って、落ちたよ――」
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 捕まったあああああぁぁぁぁぁぁ!! みんなは逃げろ、逃げるんだああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
半狂乱の子供が静まり返るまで、時間にしておよそ三十分はかかった。