40.家族とおっさん―9
「うるさい、うるさい、うるさいっ」
グルゥは頭から毛布を被ると、必死にその声を掻き消そうとした。
何故、見知らぬ少女の声が、自分の心をここまで掻き乱すのか。
その答えはすぐ近くにあるような気がして、また遥か遠くに見える景色のようでもある。
ずっと求めていた、憧憬。
ここから現実に戻るくらいなら、いっそ――
「あなたにとって、守りたいものは何なの?」
ムジカの言葉に、グルゥはハッとして目を開ける。
隣で寝ていたはずのムジカは、いつの間にか木で出来た人形へと変わっていた。
代わりに、その言葉はグルゥの胸の中から聞こえてくるようだった。
「いいじゃない。守りたいもの、それはこの幸せな家庭よ」
木の人形がカタカタと笑いながら言った。
これはムジカの言葉なのか? それともムジカではない何かの言葉なのか。
グルゥには訳が分からない。
全てから逃げ出して、もう何も考えたくないとさえ思っていた。
「嫌……なんだ……もう、私、は…………っ!!」
「私が好きなあなたは……そんなあなたじゃなかった」
グルゥの中のムジカが、グルゥを奮い立たせるように声をあげた。
「どう、して」
それに呼応するように、寝ていたはずのミノンが悲しげな声を絞り出す。
「どうして、ママはそんなことを言うの……?」




