38.剣とおっさん―5
ようやく戦う気になったかと、ツァイセは下唇を舐め回した。
だが――
「なるほど、杖代わりにはなるようだ」
グルゥは引き抜いた剣を、明後日の方向へポイと投げ捨てる。
その行動にツァイセは愕然とした。
「貴様……騎士である私が渡した剣を、そのように粗末に扱うとは……よほど、私を愚弄したいようだな……ッ!!」
「そ、そうじゃない! そんなつもりはなかったんだ!」
体が震えるほど、本気で怒り出したツァイセを見て、グルゥは慌てて弁明する。
「ただ、女性の君をあんな得物で傷つけるわけにはいかないと……そう思ってのことだ」
「女? ……そうか、貴様、私が女だからといって、手を抜いていたのだな……!!」
しまった、と慌てて口を塞ぐグルゥ。
言うと絶対怒ると思っていたから黙っていたのに、結局、それを口に出してしまった。
「私は誇り高き『ベリアル』の竜騎士だッ!! 女だからといって手を抜かれるのは……何より腹が立つんだよ……ッ!!」
「き、君は『サタン』がどういうものか分かっていないからそんなことが言えるんだ! 私だって、女子供に手をあげるのは、何よりも嫌なことなんだっ!!」
グルゥは必死に自分の思いを伝えようとしたが、それらは全て火に油を注ぐ結果にしかならなかったようである。
「ならば……貴様が見下している、女の手によって死ねッ!!」
ツァイセの姿が消えたかと思うと、一瞬でグルゥの目の前に飛び出していた。
鋭い右手の爪が、グルゥの脇腹に突き刺さる。
がはっ、とグルゥは血の塊を吐き出した。




