38.剣とおっさん―4
訝しげに聞き返すツァイセ。
グルゥの言葉は続いた。
「“黒き炎”を使う私は、私であって私でないようなもの……実際に炎を撒き散らしている時には、私の意識など存在していないのだ」
「『憤怒』の血統である『サタン』らしい答えだな。怒りで我を忘れているということか」
「ああ……だから私には、お前が期待しているような強さはないし、お前らがわざわざ仲間に加えようとする意味も無い。そもそも私は……剣も握ったこともない、銭勘定を続けて生きてきた人間だ。だから、こんなにも弱い」
グルゥの話を聞いて、ツァイセは苛立ったように爪先を上下させていた。
「だから……なんだ? 見逃せとでも言うのか?」
「そうは言っていない……だが、これ以上の争いは無意味だというだけだ。私が用があるのはミノンで、お前や、ウルヴァーサと事を構える気はないんだ」
「そのくせ、“災厄の子”は返せというのか。都合の良い男だな」
そう言うと、ツァイセは手にしていた剣を高々と放り投げる。
空中を回転しながら舞った剣は、グルゥの目の前の地面に深々と突き刺さった。
「剣を取れ。その腐った根性を叩き直し……貴様を一人前の男にしてやる」
その目は再び爬虫類のように光って、グルゥを睨めつけた。
そしてツァイセは右手の爪を鋭く伸ばすと、それをまるで剣のようにして構える。
「人の話を聞いていなかったのか……? 私は、剣を握ったことがないんだ」
「だから闘志も持たぬというのか。呆れた腑抜け野郎だな」
それを聞いたグルゥは、肩をピクッと動かすと――剣の柄を取り、血を失って重くなってきた体を支えるようにして立ち上がった。




