37.竜騎士とおっさん―7
「どうしたんだ、ミノン……私が分からないのか!?」
いつもだったら、パパ、パパとすぐに甘えてきたミノン。
それが今では、冷たい目でグルゥを一瞥しただけで、何の言葉も交わそうとしなかった。
「貴様……ッ!! ミノンに何を飲ませた!!」
「飲ませた? ……へぇ、そんなことまで知ってるのか。いったい、どういう手品を使ったんだ?」
夢で見た内容を叫ぶグルゥだったが、やはりそれは、現実で起こっていたことだったらしい。
「何、大したことはしてないさ。自立的な思考を溶かす薬を、毎晩、毎晩、じっくりとな。おかげさまで、あんたの“息子”は、今や俺の“ペット”ってわけだ!」
ミノンの体を抱き寄せ、ウルヴァーサはグルゥに見せ付けるように腕の中に収めた。
瞬間――剛毛の生えたグルゥの拳が、ウルヴァーサの顔面を捉える。
「……貴方が事を始めて、どうするのですか」
「悪い悪い。ちょっとやってみたかったんだよねぇ、こういう悪役っぽいことってさ」
グルゥの渾身の力を込めた拳は、竜化したツァイセの爪に受け止められていた。
ツァイセは一瞬でグルゥの前に回り込み、その一撃を防いだのである。
「邪魔を……するな……ッ!!」
グルゥの吐く息は熱を帯び、空気に触れた瞬間に小さな炎となって燃えあがる。
もはや戦いは避けられない、一触即発の空気だが――
「まあ、待ちなって。ちゃんと話を聞いてくれるなら、この子は返してあげるからさ」
ウルヴァーサの放った言葉は、グルゥのまったく予期していないものだった。




