37.竜騎士とおっさん―6
まさか、と思いグルゥは身構える。
「……ぃゃな感じ……」
不穏な空気を察知したミルププが呟いた。
背後では、ツァイセが剣を抜く鉄が擦れる音がする。
グルゥに背中を合わせるように、キットは振り返るとダガーを引き抜いた。
「まあまあ、待てよ。せっかくの客人なんだ、そうせっかちにおっ始めようとすんなって」
軽い口調で墓碑の裏から姿を現したのは、確かにあの夜、ミノンをその手で貫いた男の姿だった。
ドクン、とその顔を見た瞬間に、心臓が大きく脈打ったのをグルゥは感じる。
「お前が、ウルヴァーサか……!!」
ついに姿を見せた、ミノンを連れ去った憎き男。
赤と黒が混ざった長髪が、丘の上を流れる風によって吹かれていた。
「待ってたぜ、子煩悩の“お父さん”。もっともこの子は……もう、俺の手中に収めちまったけどな」
「な……ッ!?」
ウルヴァーサに手を引かれて、さらに墓碑の後ろから姿を現したのは、夢にまで見たミノンだった。
「ミノンっ!?」
「良かった、無事だったのですね!」
キットとサリエラも同時に声をあげる。
だが、ようやく再会できたはずのミノンの様子は、今までの甘えん坊の姿と違ってどこかおかしい。
黒いフードをすっぽりと被ったミノンの表情からは、感情がさっぱり消え失せていて、グルゥを見ても何のリアクションも取らないのだった。




