37.竜騎士とおっさん―5
「私はツァイセという。貴様は?」
ウルヴァーサの慰霊碑は、ドラグロアの都から少し離れた、小高い丘の上にあるそうだった。
そこには『アガスフィア』で命を落とした多くの戦士の墓があり、その内の一つが、ウルヴァーサの慰霊碑なのだという。
「グルゥ、だ。……ドラグロアには、君のような女性の騎士もいるのか?」
「女性蔑視か? フン、これだから野蛮な男は」
取り付く島のないツァイセの言い方に、グルゥはうぐぐと悔しい思いをした。
「それに何だ、貴様は? そんなに幼い少女をつれて、妙な趣味でもあるんじゃないか」
「親父のことを悪く言うんじゃねーよ! 親父は立派な男だぜ、たぶん、そのウルヴァーサってヤツよりもな!」
怒って言い返すキットを、ツァイセはフンと鼻で笑った。
「こんな冴えない男がか? ウルヴァーサ様は単騎で百人以上の兵士を討ち取ったという。それほどの武勲が、この男に立てられるとは思えないがな」
「な、なんだと……!? 親父が本気になればな、町の一つや二つくらい――」
「こ、こらキット。あまり初対面の人に汚い言葉を使うのはやめなさい」
余計なことまで言いそうになったので、グルゥはキットの口を慌てて塞ぐ。
ツァイセは何をやってるんだか、と呆れたようにグルゥを見ていた。
「――そら、着いたぞ。その目で、よくよく真実を確かめてみるんだな」
それから、ツァイセとの間に会話のような会話はなく、グルゥ達は目的としていたウルヴァーサの慰霊碑の前まで着いてしまった。
大きく立てられた墓碑には、確かにウルヴァーサと読める文字が書かれている。
「な? 言っただろう?」
「う、うむむ……っ!」
全てはツァイセの言う通りだったのだろうか?
手がかりを失い、またミノンの捜索が振り出しに戻ったかと思われた、その時だ。
「ようこそ、俺んちへ。ツァイセも、一芝居打ってご苦労だったな」
その男の声は、墓碑の裏側から聞こえてきた。




