37.竜騎士とおっさん―1
石造りの部屋の中にミノンは閉じ込められていた。
その腕と足には枷が付けられており、自由に動けない状態であることが窺える。
上半身は何も着せられずに半裸で、あちこちに擦り傷や痣が出来ていた。
「おう、飯の時間だぜ」
唐突に部屋の扉が開いて、ミノンはビクッと肩を震わせる。
そして恐る恐る声がした方へ目を向けると、ヒッと上擦った声を漏らした。
「い……いらない。それ、いらない……!」
「あ? せっかく人が作ってやったのに、いらないってのはどういう了見だ?」
ウルヴァーサはミノンの黄緑色の髪を掴みあげると、強引に顔をあげさせた。
涙目のミノンは顔を左右に振って必死に抵抗する。
すると、それに苛立ったのだろう。
ウルヴァーサは手の甲でミノンを叩くと、その華奢な体は石の上に倒れ、また新たな擦り傷が出来てしまった。
「余計な抵抗するからだぜ、ったくよ……。人の好意ってのは、ありがたく受け取るもんだ」
ウルヴァーサが持ってきたのは、白い皿に盛られたスープである。
一見すると普通のクリームスープのように見るが、その臭いはツンとするような刺激臭で、何らかの薬品が入れられていることが窺えた。
「いや……だ……! それを食べると、またボクは、おかしくなってしまう……!」
「おかしくなる? 何言ってんだよ、これでお前は従順に、もっと素直になるんだ。いい加減、パパのことなんか忘れちまえよ」
ミノンにのしかかるように、ウルヴァーサはその上に乗っかった。
両膝でミノンの腕を押さえつけ、完全に動けなくしたところで、スプーンですくったスープをミノンの口元へ運んでいく。
「とろーり、糸が引いてうまそうじゃねぇか。お前は犬だ。俺の飼い犬になるんだよ」
「嫌だ……助けて、助けてパパぁっ!!」
ミノンの悲痛な叫びが、今宵も冷たい石の牢の中に響き渡っていた。




