36.電子演算VS魔式演算 それとおっさん―9
いったい何が、サリエラの心に不安の影を落としているのだろうか。
それが分からない以上、グルゥに出来るのは、ただサリエラの体を優しく包み込んでやることだけだ。
「お父様の指……お父様の胸……お父様のお髭……」
「な、なんか妙なことをしてないか?」
変なスイッチが入ってしまったんじゃないかと、若干不安になるグルゥ。
しかしサリエラはちゃんと平常モードのままで、グルゥの体を、ちゃんと形として感じていたいのである。
「ペ……ペロ」
「こ、こら! ……お前まで、キットみたいな真似をするな!」
「すみません。でも私も、前からずっとやってみたかったんですよ」
サリエラに言われてハッとした。
それはもしかしたら、種族や血統の違いで、無意識的にこうだと決め付ける、偏見のような見方をしていた部分が自分にはあったんじゃないかと。
ミルププに対しても、『ベルゼブブ』の血統はこうだから、と穿った見方をしていた面もある。
「お父様は……私達の中で、私のことは何番目に好きですか?」
「ば、ばか。何番目とか……娘に、順番を付けられるか」
「ごめんなさい。……でも、やっぱり一番は、実のお嬢さんのノニムさんですよね。そのために私たちは、旅を続けてきたのですから」
そう言われると、違う、と言い切れない自分が居ることにグルゥは気付いた。
しかし、どうしてサリエラは急に、自分を試すようなことばかり言い始めたのだろうか。
「もう、寝ろ。このままでいいから。お前は少し、疲れているみたいだ」
「……はい。おやすみなさい、お父様…………大好き、ですよ」
いつもは年長者として頼ってしまっているサリエラだが、本当は、一番繊細で傷つきやすい心をしているのではないかと。
サリエラのことを思うと、彼女を無碍に追い出すことは出来ないのであった




