36.電子演算VS魔式演算 それとおっさん―8
ちなみにユズとの戦いで精神を消耗し切ったミルププは爆睡していて、同じように町を走り回って疲れたキットも眠り込んでいた。
キットはサリエラと同じようにもう少し怖がってもいい気がしたが、何せ、共にサグレスタワーの一件を乗り越えてきたのだ。
ちょっとやそっとのことじゃ動じないタフさが付いてきたと、考えても良いだろう。
「私、急に怖くなってしまったんです。これからの旅路、もしもお父様が死んでしまったら、どうすればいいのかって。私にとって、この旅はお父様の足跡を辿る旅ですから。そう考えた時、まるで自分の足元が突然崩れてしまったような、そんな言い様のない不安が心を満たしてきたんです」
そう話すサリエラの体は、確かに小刻みに震えていた。
それだけ、怖い思いをしたのだろう。
「大丈夫だ……よっぽどのことがない限り、私は死なないさ」
タオルケットの下で、サリエラの頭を撫でてやる。
最近はミルププに構ってばかりだと、昼間には文句を言われた。
色々迷惑や心配をかけた分、サリエラに愛情を返してやるつもりだった。
だが――腕の中のサリエラは、ぐずぐずと泣きじゃくっているようだった。
「まだ、落ち着かないのか?」
「そうじゃない……そうじゃないんです。すみません」
やはり、最近のサリエラの様子は少しおかしいように感じる。
だが、その違和感を明確な言葉にすることが出来ず、グルゥはもどかしい気持ちになるのだ。
「お父様の匂い……お父様の温もり……感じているだけで、私には居場所があるのだと、心の底から落ち着きます。その、はずなのに……」




