36.電子演算VS魔式演算 それとおっさん―3
「食らえよッ!!」
高速回転する“0”の数字が、ミルププを切り裂こうと四方八方から襲い掛かった。
対して、ミルププが扱うのは“光る魔式”だ。
「サイファ、ニクス、アルデイア」
まるで呪文のように言葉に出しながら、見たこともない模様のような文字を描き並べるミルププ。
その文字はミルププの周囲をぐるぐると回り、盾となって“0”のカッターを弾き飛ばす。
「どうなっているんだ、この状況はっ!?」
「分からないならおじ様は黙ってて!! 今……最っ高に……楽しいんだから……ッ!」
普段の無気力な状態のミルププとは違い、その赤い目は煌々と輝きだしていた。
――『暴食』の感情。
見たこともない空間が、魔式が直接剣や盾になるこの世界が、ミルププの知的好奇心を刺激し、どんどんその脳内が活性化していく。
ミルププは両手では飽き足らず、ついには両足の指、そして口を使ってまで、同時に五つの魔式を描き始めた。
「くそッ!! なんでだ!? 情報の圧縮性ならこっちの方がよほど高いはずなのに!! なんで効率で追いつけない!!」
“1”の数字が槍となりミルププに降り注ぐ。
しかしミルププの描いたYのような記号が、その槍を二又の部分で受け止めた。
「所詮……“0”と“1”だけでは単調な表現しか出来ない……手書きの文字だからこそ、細やかなニュアンスや、繊細な感情表現を、付属情報として付加することが出来る……!!」
ミルププが描き殴った“Y”は、怒れる獣の牙となってユズを襲う。
ついにユズの右肩が切り裂かれ、そこから真っ赤な血が噴き出した。
「うわああああああああああああああああああああああっ!!」
「痛い……? ねぇ、痛いの……? これが……生の感覚だよ……っ!!」




