36.電子演算VS魔式演算 それとおっさん―2
ミルププはそれを瞬時に分析すると、対応する魔式を空中に描き出していった。
「氷の壁、避雷針、風の刃、光の槍」
返しの一撃として、二つの攻撃魔法がユズへ飛んで行く。
それを打ち消すために、ユズもまたスマートフォンの操作で魔法を放っていく。
「ストーンウォール、ダークホールッ! って、こんな下級魔法の打ち合いじゃ話にならないよねっ! 行け、モンスターたちっ!!」
狭い倉庫の中に、巨大なドラゴンと一つ目の巨人、サイクロプスが召喚された。
だが、もちろんそれは実際に存在するモンスターではない。
「存在確認、除去開始。電子式のコマンドを無効化するためには――」
ミルププに対し炎を吐き出そうとするドラゴンだが、大きく口を開けた時点でその体が光に包まれ、バラバラに分解されていった。
サイクロプスもそうだ、動き出す前に、その存在を始めから無かったことにさせられる。
一応、意識を取り戻し動けるようになっていたグルゥだが、目の前で繰り広げられる光景についていけず、ただ左右に目を動かすだけだった。
「な……何が起きてるんだこれは!? 現実の出来事じゃないのか!?」
「おじ様は黙ってて。……気が散る」
いつになく険しい表情のミルププは、右手だけでなく左手も使い魔式を描き続ける。
「あーもうさぁ……いちいち何かに変換するのも面倒だから、こういうのはどうかなァ!?」
ユズがスマートフォンの画面を撫でた瞬間、グルゥ達がいた倉庫は暗黒に飲み込まれていった。
「な、なんだこれは!?」
真っ暗な空間の中で、数字の“0”と“1”だけが、薄く緑色に光る数字となってグルゥ達の周囲をぐるぐると回っている。
「これが、あのチートスキルの真の姿……!!」
ミルププにはその原理が分かっているようで、目の前の不可思議な空間をあっさりと受け入れていた。




