35.ゲームとおっさん―9
「これで終わり……か」
ユズは返り血を浴びた頬を拭うと、気絶した三人の顔をしっかり確認していく。
グルゥの仲間のうち、少年は何か別の組織に攫われたはずだった。
つまり、アキトに敵対していたグルゥの仲間は、これで全滅したことになる。
ゲーマーとして、最後の最後まで気を抜くことは出来ない。
クリア画面を見るまでは、どんな仕掛けが残っているか、分からないからだ。
三人はまだ、ゲームの世界で受けたショックで、意識を失っているだけの状態である。
これを現実のダメージとして確定させるためには、スマートフォンの映像を見せて、本人達の脳に傷ついた姿を“認識”させなければならない。
「結局、不便なチートスキルだよな……」
それが一番危険な作業だということは、ユズは重々認識していた。
スマートフォンを掲げたまま、気を失っているグルゥの肩を叩き、早く起きろ、早く起きろ、と心の中で念じる。
一度、画面さえ見せてしまえば――ダメージが本物だったのだと勘違いしたグルゥの体は、思い込みで勝手に裂けていくのだから。
ゲームの世界のパペッタ達は、家族団欒の食事を行っていた。
それが誰の何処の部位の肉なのかは、もはやユズにも分からない。
「まあ、もうどうでもいいか……」
グルゥの髭を引っ張ったり、頬を人差し指でツンツンしてみたり、色々な努力をして、ようやくグルゥは意識を取り戻しかけた。
「……ん…………?」
目を開けた途端に見えたのは、ゲームオーバー画面のドット調の自分の姿である。
腹を捌かれ、えんえんと泣いている姿が、二コマでデフォルメされて描かれている。
「あ……ッ!?」
その瞬間に――現実世界の自分の腹部にも、ピンと一筋の切れ目が入ったのが分かった。




