35.ゲームとおっさん―8
目の前で突然吹き飛んだキットを見て、サリエラは困惑していた。
キットは白目を剥き、泡を吹いてビクビクと痙攣している。
ゲームの世界ではキットが真っ二つにされてしまったことなど、サリエラは知る由もなかった。
「ど、どうして……どうして何の武器も持たないあなたが、お父様やキットを倒すことが出来ますの……!?」
「どうしてだと思う? 一度経験してみれば、君も分かるよ」
ユズはスマートフォンをサリエラに向けて、サリエラもキャプチャーし、ゲームの世界へ招待しようとしていた。
「あと少し……三、二、一――」
ユズのカウントダウンが終わった瞬間、サリエラは自分がいたはずの倉庫が、突然、古びた民家の一室に変化したのを感じた。
むせ返るような鉄の臭いと、床に広がる血の海。
それらは全て、グルゥとキットの体が、グチャグチャに損壊された末の――
「うっ……うぇぇぇぇぇっ!!」
込み上げる吐き気を抑えきれず、サリエラは口元を押さえてしゃがみ込む。
「あーあ。グロ耐性ない子は大変だねー」
「そ、そんな……こんな、こんなのって……おかしい……です……っ」
サリエラの長い髪を掴んで、ノッポの人形がその体を血の海の上に引きずり倒す。
その上に、動けないようパペッタと犬の人形がのしかかり、サリエラの白く細いうなじを、太っちょの人形の大きな斧が狙っていた。
「いや……助けてっ、お父様――」
サリエラの断末魔は、風を切る鉄の音と、噴水のように吹き上がった血の音でかき消されていった。




