35.ゲームとおっさん―5
「やっぱり凄いよ、グルゥさん」
ユズはスマートフォンを操り、『悪戯好きのパペッタ』の攻略情報を見ていた。
「これは隠しエンディングで、“達成されし受肉”って言うんだって。ぼくはどっちかと言うと早解き重視だからさ、こんなバッドエンディングなんて、一度も見たことがなかったんだ」
興奮気味に、ユズは一息でまくし立てた。
自身の顔のサイズに合わない眼球を埋め込んだパペッタは、楽しそうにグルゥの体の上で飛び跳ねていた。
そのおぞましさに、グルゥは意識を取り戻してしまったことを本気で後悔する。
見たところ、ここは何処か薄暗い屋内のようだ。
それとも、それ自体がまた一つの幻覚なのか。
「グルゥさん、幸せだよ。今はVRゲームが流行りだけどさ、視覚や聴覚だけでなく、痛覚、嗅覚、味覚まで、どっぷりゲームの世界に浸かれるんだもん。この後はパペッタの家族達が出てきて、みんなでグルゥさんの内臓を掻っ捌いて、それぞれ生きた人形へと変貌を遂げるんだって。それって、どんな恐怖かな? どんな絶望感なのかな? 想像するだけでわくわくするよ、代わって欲しいくらいだ!」
じゃあ代われよ、とグルゥは言いたかったが、口を縫合されてしまっているため声も出なかった。
胸の上のパペッタは手招きをすると、何処からともなく、同じような人形がぞろぞろと現れてくる。
少し太っちょの人形と、胸元の膨らんだノッポの人形。
そして綿のはみ出した犬の人形と、それらは全て、刃物を持ったり、咥えたりしていた。
「あ、もちろんエンディングの途中で、グルゥさんのライフはゼロになるみたい。でも大丈夫、ぼくはすぐにグルゥさんの体にはフィードバックしないで、ちゃんと最後までエンディングを見させてあげるからね」
(フィードバック?)
意味は理解できなかったが、どうもこの悪夢のようなグロテスク・ショーは、それが達成される最後の瞬間まで垂れ流されるらしい。




