35.ゲームとおっさん―4
――ピタ、ピタ、と規則正しく何かが滴る音がしていた。
頭が痺れたように重い。
何があったのか思い出せない。
だがグルゥは、自分の体の自由が利かないことに気が付いて、徐々にその異変を感じ取っていく。
「ん……んんーっ!!」
あまりの驚きに叫ぼうとしても、うまく声が出せなかった。
それもそのはずで、グルゥの口は既に黒い糸によって“裁縫”され、声が出ないようにしっかりと上唇と下唇が縫われていた。
視界もおかしい。
左側の空間が、妙に認識できない。
不自然な感覚に首を動かして、ようやくグルゥは理解する。
「…………ん……ッ!!」
血に濡れた眼球が、グルゥの顔の横に転がっていた。
パペッタはグルゥに見せ付けるようにしてそれを拾い上げると、自身のバッテン印の左目に、グルゥの眼球を埋め込んでいく。
(なんだこれは……!! もう嫌だ……!! こんな世界から、早く解放してくれ……!!)
ジタバタと暴れるグルゥだったが、その手足は冷たい台の上にしっかりと杭で打ち付けられ、動けなくなっていた。
滴る水音は、そこから垂れ流される血の音だったのだ。
左の瞼も縫合されてしまったようで、うまく片目を開けることが出来ない。
磔にされたグルゥは、ただ目の前で始まる“イベント”を、黙って受け入れることしか出来なかったのだ。




