35.ゲームとおっさん―3
鋭い犬歯がグルゥの皮膚を突き破り、バキバキと骨が折れる音がした。
内臓まで達するダメージに、グルゥは血反吐を吐いてその場で悶絶する。
確かに、激しい痛みの感覚がそこにはあった。
骨から脱出しようと試みるグルゥだが、その体は金縛りにあったように、急に動かなくなってしまう。
「余計な抵抗はやめなって。これは、そういう“イベント”なんだからさ」
仰向けに倒れたグルゥの周りを、パペッタがぐるぐると走り回っていた。
ケタケタと笑うその声は悪夢のようで、グルゥは何が現実で、何が幻覚なのか、徐々にその境目が分からなくなりつつあった。
「ほらほら、パペッタも第三ステージの形態になったよ? 今度の武器は裁縫のピンだ」
それは、グルゥが宿のベッドの上で見たピンと、同じような大きさのものだった。
焦るグルゥだが、顎の骨格はまだグルゥの体を離そうとしない。
「やめ……ろ……!!」
やがて狙いを定めたように、グルゥの顔の前で足を止めるパペッタ。
その針の先が、徐々にグルゥの左目に近付いていく。
「あーあ……これじゃ、バッドエンドに直行コースかな」
ユズはグルゥに一瞥もくれることはなく、手元の画面と睨めっこをしている。
そして、ついにパペッタはそのピンの先を、グルゥの左目に突き刺した。
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
眼球を突き破ったピンは、そのままグルゥの脳にまで達する致命的なダメージを与える――という、“感覚”。
情報を処理できなくなったグルゥの脳は、焦げ付いたように動かなくなり、グルゥは虚空を見つめて目を見開いたまま、失神した。
「あーあ……まだライフは一つ残ってるのに。これじゃゲームが進行しないじゃん、つまんな」
飽きてしまったのか、つまらなそうに画面を凝視するユズだったが――その表情は、突然パッと明るくなった。
「いや、違う……これって、フラグが立ったんだ……!?」




