35.ゲームとおっさん―2
ブツン、と何かが寸断される音がした。
手元を見て、グルゥは悲鳴をあげる。
「ああ……っ!? うわあああああああああああああああああああああああっ!?」
左手で捕まえていたパペッタが、いつの間にか装備を持ち替え、大きなハサミで左の中指を切断したのだ。
血を噴き出し地面に転がったグルゥの中指は、まるで蒸発するかのように、バシュン、と妙な音を立てて消えてなくなってしまった。
「ぐあああああああああああああああああああッ!! 指が……指がああああああああああああああああああああっ!!」
「はい、これで残りライフ二つ。あと二発食らえば、グルゥさんはゲームオーバーだね」
ダメージは幻覚のようだが、それでも感覚は感覚だ。
激しい痛みにグルゥは膝をつき、中指を失ったことにより力が無くなった手から、パペッタは元気良く飛び出していく。
「回復アイテムはこの中だよ?」
ユズは足先で、腰掛けている木箱をバシバシと蹴った。
グルゥは言われるがまま、ふらふらと木箱に近寄っていく。
「おっと、このままぼくがここに居たら、グルゥさんの邪魔になっちゃうね」
ユズはそう言って後ろに下がったが、本当は木箱を開けるフリをして、そのままユズを捕らえるつもりだった。
パペッタは後ろから迫り、シャキンシャキンと何度もハサミを開閉して音を鳴らしている。
「ちなみにそのパペッタは、第二ステージの形態なんだ。やっぱハサミって鉄板だよね」
ひとまずグルゥは、回復アイテムがあるという木箱の中を開けてみた。
確かにそこには、キラキラと輝く液体が入ったビンが置かれていたが――
「もちろん、アイテムを取るためには、相応のリスクが存在してるんだ」
同時に木箱から飛び出してきたのは、巨大な犬の顎の骨格である。
それはトラバサミのようにグルゥの胴体に食らいつくと、その場にグルゥを押し倒し、動けなくした。
「パペッタの愛犬だよ。ミスにはならないけど、しばらく行動不能になる。本っ当に、製作者の底意地の悪さが見えるゲームバランスだよね」
倒れたグルゥを見下ろすユズは、アハハ、と無邪気な表情で笑っていた。




