35.ゲームとおっさん―1
さて、とグルゥは考える。
パペッタを捕まえ、当てもなく町を走り出してしまったが、恐らくこの怪現象の本質はユズの使用しているチートスキルのせいだ。
つまり、いくらパペッタを倒したところで、ユズ自身を倒さなければ同じ現象が繰り返されるだけなのだろう。
とすれば、やるべきことは一つだ。
「耳当てをつけた少女を見なかったか!?」
「ヒィッ!? そ、そんな子ならあっちの方に走っていきましたけど!?」
グルゥに突然凄まれて、『マモン』の少年はチビりそうになるくらいに震えあがり、裏路地の方を指差した。
「助かる。驚かせて悪かったな」
グルゥは空いている右手で少年の頭をポンポンと叩いたが、失敗した、と後悔する。
血でべったりと濡れた手は、少年の頭と猫耳を真っ赤に染めてしまったからだ。
「あ、どうも」
が、少年はそんなことなどまったく意に介していない様子で、素直にグルゥに礼を言った。
やはりそうか、とグルゥは頭の中で一つの仮説を組み立てる。
(キットも私の怪我には無反応だった。やはりこのダメージは、私自身が見ている幻覚らしい。いや、幻覚というよりも、ユズの作り出した世界にまんまとハマってしまったということか)
少年が指差した裏路地に駆け込んでいくグルゥ。
するとそこには、木箱の上に腰掛けるユズの姿があった。
「あ、もう見つかっちゃった」
(そしてこのチートスキル、恐らくは私を罠にかけ続けるための、射程距離があるに違いない。でなければ、こんな近くでユズがうろちょろし続けるわけがない)
ユズはグルゥではなく、手元の画面を見ながら何やら操作をしていた。
そして、右の人差し指を勢いよく画面の上で滑らせる。




