34.人形とおっさん―9
「なんだ、今……親父の悲鳴が聞こえたような!?」
真っ先に駆けつけたのはキットだった。
耳と尻尾の毛があちこち縮れていて、爆発の影響があったことが分かる。
「あ、そこにいたのかよ親父! 心配したんだぜ、爆発に巻き込まれたのかと――」
「来るな、キット!!」
包丁を引き抜いたパペッタは、グルゥとキット、どちらを狙うべきか悩んで右往左往している。
グルゥは右手を押さえながら叫んだ。
「この人形は、危険だっ! 近付いちゃいけない!!」
「……人形? 何言ってんだ、親父。っていうか手を押さえて何してんだよ。怪我でもしたのか?」
とぼけたようなキットの言葉に、グルゥは愕然とした。
(まさか……見えていないのか!? この人形、そしてこの怪我が!?)
どういう理屈なのかは分からないが、先程の受付の反応からしても、暴れまわるパペッタはグルゥにしか見えていないらしい。
「あーあ。もう残りライフが三つしかないね。この先、グルゥさんは生き残れるのかな?」
ユズはそう言うと、人混みに紛れてその場から立ち去っていった。
「あれ? アイツの姿、どこかで――」
キットはユズのことを気にしているようだが、そんなキットの胸元に、パペッタの包丁が差し迫っていた。
「こいつッ!!」
後ろからパペッタを鷲掴みにしたグルゥは、キットとの距離を離すため、そのまま通りを駆け出していった。
「ど、どこに行くんだよ、親父っ!?」
「お前らは三人で固まって避難してろッ! 何処から攻撃を仕掛けられるか、分からないからな!!」
取り残されたキットは、呆気に取られた様子でグルゥの背中を見つめていた。




