34.人形とおっさん―6
またか、と慌ててグルゥは部屋の方に戻る。
足音は聞こえたものの、戻ってみればそこには何も動くものはなく、ただ丁寧にセットされたベッドが置いてあるだけだ。
「……ん?」
そのシーツが、一部不自然に垂れ下がっているのに気が付いた。
先程座って、ピンが落ちていたところだ。
自分の座った重みでずれたのかと、普通であればそう考えるところだが――
「何の音だ」
カチ、カチ、と時計の針のような音が、ベッドの下から聞こえてくるのに気が付いた。
その死角――本来であれば心休まるはずの宿の一室に生まれた暗渠に、グルゥは異常とも思えるような恐怖心を抱いていた。
心臓が早鐘のように脈打ち、不穏な空気から逃げるよう、体に警告を与え続けている。
だが、グルゥは意を決すると、床に這いつくばってベッドの下を覗こうとした。
もしも危険が迫っているのなら、三人にそれが及ぶ前に、自分が身を挺して確認するべきだと。
目隠しのように垂れたシーツを、そっと指で摘んで、払いのけてみる。
するとそこには――
「マァダダヨ」
暗闇の中、無表情に横たわる人形がそこにはあった。
ヒィッ、とグルゥは声を漏らしそうになるが、それは人形を見つけた驚きよりも、人形の腕の中の赤い箱に対してだった。
あちこちからコードが飛び出した、時計付きの小さなボックス。
それはどう見ても、“来るべき瞬間”を待っているような雰囲気で――
窓を突き破って外へと転がり出るグルゥ。
少し遅れて、大きな爆発が起こり宿は火に包まれた。




