34.人形とおっさん―2
「あ、そ、それ……!?」
「え? ……ああ、これは以前に止まられたお客様の忘れ物ですよ。可愛らしいお人形ですよね」
受付の言葉にグルゥは耳を疑う。
(可愛らしい? というか、忘れ物? あの老婆の店にあったのに?)
先程見たものとは別のものだろうか?
それだけ、この人形が流行っているのだろうか?
だが、老婆は異国の人形と言っていたはずだ。
同じものがいくつもあるとは考えにくい。
じゃあまさか、先回りをされた?
「いつからその人形はあるんだ?」
「いつから? ……さあ、いつからだったでしょうか。はっきりとは覚えていませんが……あ、四人部屋、空いておりましたよ」
「すまない、部屋を変えてくれないか! ……三人部屋が一つと、少し大きな、一人用の部屋が一つ欲しい」
唐突なグルゥの要求に受付のお姉さんは面食らったようだが、かしこまりました、とあくまでプロフェッショナルな対応をした。
(この胸騒ぎが、気のせいであればいいのだが)
そういえば動く人形なんて怪談を子供の頃にデルガドスに聞かされて、しばらくの間一人でトイレにいけなかったと、そんな過去の思い出をグルゥは思い返していた。
デルガドスのド下手くそな話が怖かったのではない。
嫌がるグルゥを面白がって押さえつけ、るんるん気分で怪談を勢い良く話すデルガドスがトラウマだったのだ。
(昔は本当に酷い暴君だった……)
でも今も大して変わらないか、とグルゥが思い直したその時だ。
カタカタと音がした方向に目を向ける。
受付のお姉さんの肩の後ろから、人形がゆっくりと顔を覗かせていた。




