33.乙女心とおっさん―8
座った姿勢で佇んでいるその人形は、目や口がバッテン印の裁縫で表現されていて、可愛いようにも見えるし、顔を縫われたグロテスクな形相にも見える。
いや、恐らくは、何の先入観も無しに見ればそれは純粋に可愛いものなのだろう。
ただ、人形が手にしているのはフェルトの包丁で、ご丁寧にその先端には赤の布で血が表現されており、決して見ていて気持ちの良いものではなかった。
「ふぇっふぇっふぇっ。異国の人形だよ。生きた子供を材料に作られているとか、いないとか」
「い、いや……どう見たって裁縫で作られたものだろう。あまり不気味なことを言わないでくれ」
ぞぞーっと、怖い話が苦手なグルゥは背筋が寒くなるのを感じた。
購買意欲も一気に消え失せて、さすがにこんな呪われそうなところで商品を買わなくていいかと、グルゥはそこから立ち去ろうとする。
だが、真っ赤なベレー帽を被ったその人形から、何故かグルゥは目を離すことが出来ず、しばしの間そこで固まったように立ち尽くしてしまった。
「キャプチャー完了」
何者かの声がして、ハッと大通りの方を見やる。
大きな耳当てのようなものをつけた少女が、手のひらサイズの機械をグルゥに向け、ずっと監視していた。
「な、なんだ君は――」
声を掛けようとしたが、少女は機械の画面をグルゥにチラリと見せると、すぐにその場から立ち去っていった。
慌てて後を追いかけたが、大通りの人混みの多さに、その姿は完全に見えなくなってしまった。
(なんだあの機械……? 画面には、デフォルメされた私のようなものが映っていたが)
『GAME START』。
その意味を理解できないグルゥにとって、不意に現れたユズの目的は、まだ何一つ理解出来ないのであった。




