33.乙女心とおっさん―7
「――だからッ! 『サタン』の血統ってのはッ! 野蛮で嫌いなんだよぉぉぉっ!!」
半泣きになって裏路地から逃げ出していく若者。
ずり落ちたズボンをたくし上げながら大通りの方へ戻っていくが、荷物運搬中だった『アスタロス』の男に弾き飛ばされてゴロゴロと転がっていった。
残されたグルゥは、ふぅ、と一息ついて額の汗を拭う。
(やりすぎた……)
もったいぶった言い方をし続ける上に、ずーっと煽られるので、手は出さなかったものの色々とやってしまったグルゥだった。
だが、代わりに得られた情報もちゃんとある。
“将軍ウルヴァーサ”というのは、『ベリアル』の血統の間では知らないものは居ないと言われるほどの、名将であるということ。
その活躍は、時に伝説として語られているという。
(そんな男が、どうしてミノンを)
ウルヴァーサの目的までは流石に知らないようだったが、常に“ドラグロア”のために動いていた素晴らしい人だと、若者は言っていた。
なるべくなら戦いたくない相手だなと、聞いた情報のあまりのスケールの大きさにグルゥのテンションはダウンする。
「もし……もし、そこのお兄さん」
しわがれた老婆の声がして、グルゥはキョロキョロと周囲を見渡した。
裏路地の奥で、ひっそりと老婆が何かの店を開いていることには気が付いていた。
ただ、お兄さんという単語に自分が反応していいのか、心配になっただけだ。
「あ、ああ……すまなかったな、店の前で色々と騒いで」
お詫びに何か買って行くべきかと、グルゥは老婆がマットの上に出している商品に目を通した。
雑貨屋というか、特に統一性のないアクセサリーなどがぱらぱらと置かれている。
何かの骨で出来た指輪など、あまり趣味の良いものが無いので、苦笑いしながらグルゥが立ち去ろうとした時だった。
「…………ん?」
一体の、布で出来た人形が、妙にグルゥの目を引いた。




