33.乙女心とおっさん―6
「な、なんだぁ!? 娘って……いやいや、種族からして違わねーか!?」
グルゥは折れた角を黒い布で隠してはいたが、魔人同士であれば、その体格からしてなんとなく察しがつくのだろう。
「魔人と人間の交配は、俺様達の間じゃ禁忌のはずだぜ。お、おっさん、うまいことやったんだな。尊敬するぜ、はは」
若者はグルゥの姿にビビってはいるものの、だからと言って衆人監視の中で引き下がれないのが、『ベリアル』の血統の面倒くさいところである。
「お、お父様……」
「サリエラ……お前は、キット達と一緒のところに行っていろ。お前を傷つけるようなことを言ってしまったことについては、素直に謝る。だが、今の私は何よりそれ以上に――」
サリエラの腕を掴んでいた若者の手を、グルゥはがしっと上から掴みかかる。
「非常に気分が悪いんだ……!! こんな人混みの中で、娘を貶めるような発言をされたのだからな……っ!!」
グルゥに腕を引かれて連れて行かれる若者は、俺様死んだ、と絶望的な目をしていた。
「お、お父様っ!!」
去り行くグルゥの背中に、サリエラは、これだけは伝えておかねば、と声をかける。
「私は……私は、まだまだお父様と一緒に居たいですっ!! これまでも……これからもずっと!!」
それを聞いただけで、グルゥは重くなっていた心が一気に軽やかになったのを感じる。
親指を突き上げ、背中でサリエラに答えると、グルゥは『ベリアル』の若者を人通りの少ない裏路地の方へと連れ込んだ。
「い、命だけはっ! 命だけはお助けをっ!!」
「何を勘違いしてるんだ?」
人の視線が少なくなった途端、すぐさま命乞いを始めた若者に対し、グルゥはフフッと笑って答える。
「私は“情報収集”がしたいだけだ。……“将軍ウルヴァーサ”という名前に、聞き覚えはないかな?」




