33.乙女心とおっさん―5
「ごめんなさい」
「ごめんで済んだら、俺様はいらないんだよね」
若者は意味不明なことを言っていたが、自分至上主義の『ベリアル』としては別に珍しいことでもない。
若者は尻餅をついたサリエラの腕を強引に掴むと、手首を捻るようにして無理やり立ち上がらせる。
「きゃっ!?」
「ふーん……人間の割には綺麗な見た目してんじゃん。これで翼があったら最高なんだけどな」
そう言って、自身の両翼をはためかせる若者。
なんだなんだと、雑踏の中で二人に注目が集まった。
「なぁ、どうだ今晩。俺様、他の種族の体のつくりにもとっても興味があるんだよね」
若者の言葉を聞いて、サリエラの背中にぞっと冷たいものがはしった。
「そ、そんな勉強会、興味はありませんっ」
「勉強会? ……はは、君、面白いこと言うねぇ」
言葉の意味は理解していないサリエラだったが、なんとなく二人の会話は噛み合ったようである。
「ますます気に入ったよ。夜の勉強会でもしようじゃないか」
若者が強引にサリエラを連れて行こうとした――その時だ。
「そこまでだ。……私の娘に、手を出すな」
でかい図体が災いして、なかなか人だかりを通れなかったグルゥが、ようやくサリエラの下まで到着した。
現れた、自分の一.五倍はありそうな巨漢を見て、若者は目玉が飛び出そうなくらい驚いた。




