33.乙女心とおっさん―4
ホームシック、という言葉を聞いて、グルゥはさらに心が重くなるのを感じる。
元々サリエラは、何か目的があるわけでもなく、成り行きでずっと一緒について来てくれていた。
ブランからは、ジルヴァニア王国の名家の生まれで、軟禁状態だった日々に嫌気が差し家出中、というところまでは聞いている。
(もしかしたら、サリエラはそろそろ、家に帰してやるべきなのかもしれないな)
自分の都合で『イルスフィア』まで連れて来てしまった挙句、さらなる争いに巻き込もうとしている事実を重く感じ、グルゥは改めて自分の至らなさを思い知った。
「…………帰りたい、のか?」
その言葉を口にするのはとても勇気がいることで、重くなった心が今にも張り裂けそうな思いだったが。
グルゥの言葉を聞いて――ついにサリエラは、人目もはばからずに、その両目から大粒の涙を零した。
「えっ!? えっえっえっ!?」
「どう、して――」
サリエラは心底グルゥを見損なったような、そんな絶望的な目をして。
「どうして、そんな意地悪なことを言うんですか?」
溢れる涙を止めることが出来ず、ばっとその場から走り出してしまった。
「待てッ!! サリエラッ!!」
ここで別れたら、もう二度と会えなくなる。
そんな予感がして、グルゥは必死でサリエラを止めようとする。
――が、
「きゃっ!?」
サリエラはあっさり足を止めた。
ごちーんと、通りがかった魔人にモロに激突したからだ。
「ご、ごめんな――」
「人間の娘風情が、誇り高き『ベリアル』に……どういう了見なわけ?」
問題は、ぶつかった相手がいかにも面倒くさそうな、『ベリアル』の若者だということである。




