###病床にて###―3
「っざけんじゃねぇよッ!! 今まで安全なところにずっと引きこもってて、自分が飽きたからってそれかよッ!! だったら、テメェがこの状況なんとかしてみろやッ!!」
「ダメ、アキトッ!!」
アキトは枕元の水差しを、力任せにユズに投げつける。
ユズは首を横に動かしてそれを避けたものの、ヘッドフォンのコードが外れ、手元のスマートフォンからデッデレーと自機を失ったことを表すSEが流れた。
「あーあ……せっかく、ノーミスクリアを目指してたのに」
「どうなんだよ……何とか言ってみろよ、ナナオ ユズリハァッ!!」
怒りのあまり、ユズのフルネームを叫んで威嚇するアキト。
「そう、だね……」
ユズは突然すっと立ち上がると、スマートフォンの画面を二人に見せ付ける。
そこに、映し出されていたのは――
「まずはこのゲームより、その魔人を攻略してみる方が面白そうだ」
ドット調で表現されたグルゥ。
そのグルゥがプレイヤーキャラにざくざくと刃物で斬り殺されて、画面には『GAME CLEAR』の文字が表記されていた。
「まさかユズ、一人で行く気!?」
「大丈夫だよ……ぼくの『異世界式電子式多機能式端末』ならね」
そう言って、スマートフォンを左右に振るユズ。
その表情には、今まで見せたことがなかったような、無邪気な笑みが浮かんでいた。
「ぼくってさぁ、ゲームの天才だからさぁ。魔人は攻略してあげなくっちゃ」
世界的プロゲーマーであるナナオ ユズリハ。
一度入ったそのスイッチを止めることは、二人だけでなく、もはや世界中の誰にも出来ないことだった。




